2007/08

徒足の効用

渋谷の本屋で面白そうな本を見つけました。湯川秀樹の「物理学講義」です。自分は、どうも己の手に届かないことに対して、必要以上の羨望を抱く癖がありそうです。物理学の世界はそうした一つで、昔から内容を理解できないにも係らず、その系統の本を拾い読みしては、途中で投げ出しているのです。今回もそうした運命にあると感じつつ読み始めたのですが、不思議なことに面白くて最後まで読み通しました。著書に記述されている様々な物理現象を自分は何も理解できずに居るのに、何故最後まで読めたか、・・・色々考えて見ますと、湯川さんが中間子論にたどり着くまでを、歴史的な流れに沿って解説しつつ、そこに自身の見解を述べている、その取上げ方が新鮮なので、門外漢にも飽きが来なかったのであろうと思われます。特に印象が深かった点は、彼が評価するニュートンの研究者としての資質についてです。何故ニュートンは「革命的な力学」を確立できたか、その発見と一見相反する中世錬金術に強い関心を抱いて研究に没頭していた事実を指摘して、ニュートン力学の発見には、こうした一見無駄に思える試行錯誤こそが必要であったと強調されたのでした。昔、科学史研究のマーガレット・ジェイコブが著した「ニュートン主義者とイギリス革命」を興味を持って読んだのですが、当時の宗教界の論争が如何に物理学の発見とシンクロしていたか、その指摘に不意を突かれたものです。エレガントで画期的な解答を得るには、目立つ上澄みだけを解いても真理に到達できない、・・・情報過多な今の時代に対して、重みを持った言葉ではないかと感じた次第です。

写真説明

後年、熱力学の端緒を築いたロバード・ボイル、彼が基金を据えた連続講義「ボイル・レクチャー」に拠ってニュートンの自然哲学が広まったとジェイコブは記しています。